待てど暮らせど
薄曇りとは露出が少なくて、写真を撮るには絶好の日にちがいない。
街をすっぽりと包み込んだ朝靄はいまだ絶えず、外周より差し込む陽光が大気の粒子に乱反射して淡く明るく染め上げる。
ふだん彼女があらわれるにはまだ早い時刻のはずだった。しかし会いたいという気持ちが男の足を急かしたのだ。仕方なしに男は駅の壁に背をあずけ、来しなに買った缶コーヒーを開ける。
ぐびりと一口やってから、嘆きとも安堵ともつかぬ息を吐いた。
喧騒が耳に障り、男は目をやった。始発待ちの生酔い大学生が肩を組んで奇声をあげていた。それが千鳥足で去ってしまうと、駅頭はまた耳を塞いだように静かになった。
利用者の少ない古びた駅頭の待合は、まるで水底のように静まりかえっている。
また今日も来ないつもりだろうか。
またぼくひとりの待ちぼうけだろうか。
正確に言えば待ち合わせをしたつもりもない。彼女がときおりここを通るという噂を聞きつけ、待ち伏せているにすぎない。
AGA
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